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こころから
第16章 直人8
「部長、ここの数字って」

 運よく担当者が席を外した隙に、ぼくは牧原部長に耳打ちした。
部長は口に手を当てて、ひゅっと息を吸い込んだ。
ミスに気づいて青ざめる牧原部長を見たのは、これが初めてだった。

 先方に書類を提出する前でよかった。
そこからは、牧原部長の機転でなんとか事なきを得た。
しかしその分時間を取られてしまって、
ようやく気を抜くことができたのは、
とっぷりと日が暮れてからだった。

「ごめんね、すっかりと遅くなっちゃって。
でも坂井くんのおかげで命拾いしたわ」

「いえ、ぼくは何も」

 結局、牧原部長がいたから何とかなったのだ。
ぼくひとりでは、何をどう対処すればいいのかまるでわからなかった。
そこそこ仕事ができるようになったと自負していたが、
まだまだだと痛感させられた。
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