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こころから
第17章 久美子8
嘘を言っているのはすぐにわかった。
電話で宿を探す声はだいたい聞こえていたし、
手持ちが少ないって言ってたけど、
坂井くんならスマホを使いこなすので、
現金払いは必要ないってことも知っている。
それに、いつも誠実な坂井くんが、
シングルもあると言ったときに目を逸らせていたのも変だった。
嘘に甘えるつもりで、ダブルルームの鍵を受け取った。
部屋に入り、荷物を置いてカーテンを開けると、
さみしそうな通りが見えた。
ひとも車もまばらで、薄暗く、
街灯の光が届いていない暗闇がそこかしこにある。
街路樹は葉を揺らせていて、さっきより風が強くなっていると知る。
姿は見えないけど、この景色のどこかに、
とぼとぼと歩く坂井くんがいるのだと思った。