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こころから
第17章 久美子8
 やっぱりだめ、と文章を消去しようとして、
いつもなら絶対にしないミスをしてしまった。
このときに限って消去のボタンと間違えて送信ボタンを押してしまった。
ひえっと思わず声が出てスマホを放り投げてしまったけど、
もうこうなったら仕方がない、と気持ちが据わった。
スマホを拾いあげ、続けてラインを送信した。

 部屋に入ってきた坂井くんは、こっちが驚くほど緊張していた。

「すみません、なんか、こんな……」

 ごにょごにょと言っている。
妙に前屈みになって、ずっとぺこぺこしている。

「ベッド、半分使って。
こんなおばさんと一緒のベッドなんて嫌でしょうけど」

「おばさんだなんてそんな」

 嬉しいです、と小さく言ったのを、私は聞き逃さなかった。
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