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こころから
第17章 久美子8
 坂井くんに、先にシャワーを使ってもらった。
遠慮する坂井くんをバスルームに押し込んだ。
いつも夫のあとでお風呂に入るので、
案外体臭が残るということがわかっているからだ。
脱ぎ捨てられている坂井くんのスーツを手に取ってみる。
さっきはできなかったけど、今ならだれも見ていない。
私は坂井くんのスーツを胸に抱き、そっと鼻を近づけた。
ぶつかるほど接近したときに香るあの匂い。
私は彼のこの匂いが好きになっていると気づく。
少し悔しくて、わざと声に出して、ふーんと言ってみた。

「お先に頂きました」

 浴衣姿の坂井くんが出てきた。
まだ前屈み。
いつも坂井くんは姿勢がいいのになって思って、
不意にひとつ変なことに思い当たって、
でもまさかってすぐに頭から追い出した。
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