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あの海の果てまでも
第6章 秋桜の涙 〜絢子の告白〜
「絢子さん!こっちこっち!早く早く!
兄様の障害馬術が始まるわよ!」
雪子の闊達な声が絢子を招く。

「雪子様…お待ちになって…」
絢子は人波を恐々と避けながら、必死で背の高い親友、雪子を追う。

落ち葉が降り積もる秋の神宮外苑の馬場には、驚くほど大勢の観客に溢れている。
普段賑やかなところに外出することは余りない絢子には思わず二の足を踏むほどであった。

しかも、観客の人々は皆、煌びやかに正装していた。
皆、上流階級の紳士や淑女には相違なく、母親に連れられて出席したお茶会などでなんとなく見かけた顔の婦人たちも集まっている。

男性は昼間の正装の秋物のスーツ姿、女性は、アフタヌーンドレスか見事な縫い取りのある豪奢な着物姿…。

…お母様の言うことを聞いて、念のため新しい綸子縮緬のお振袖を着てきて良かったわ…。
絢子は密かに胸を撫で下ろす。

…そして、改めて観客を見渡し息を吐く。

馬術大会と聴いていたが、ここはもはや一種の社交場だ。

芝生の広間には白い麻の大きな天蓋がいくつも張り巡らされ、シャンパンを片手に人々は楽しげに談笑をしている。
給仕をする下僕の数も多い。
まだ未成年の青年や令嬢たちには、お茶や珈琲、スコーン、プチケーキ、チョコレートなどもふんだんに用意されていた。
子どもたちは母親や乳母の手を離れ、嬉しげにはしゃぎ回っている。

「絢子さん。大丈夫?
さあ、こちらよ。
ここからは足場が悪いから気をつけてね」
遅れを取った絢子を心配し、雪子は親切に戻って来てくれたようだ。
ぼんやりしている絢子の手を取り、優しくいざなってくれる。

「…ありがとう…。雪子様」
「雪子さんで良いって言っているでしょ?
私のうちは貴女たちのように貴族じゃないんだから。
もっと気楽に接して」
振り返りお茶目にウィンクしてみせる雪子は、凛とした目鼻立ちの大層な美人だ。

長く艶やかな黒髪を結い上げもせず、無造作に肩に流しているのも颯爽として美しい。
馬場に相応しい枯葉色のチェックのジャケットにマルーン色のロングスカート、臙脂色のブーツがまるで西洋人のように良く似合っていて実に洗練されている。
絢子は改めて、この親友の姿に見惚れる。

…雪子様…本当に素敵…。

大紋雪子。
絢子が星南女学院に入学後、初めて出来た友だちであった。





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