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あの海の果てまでも
第2章 新月の恋人たち
…船がサウサンプトン港に着き、その足でそのまま汽車に揺られ、ロンドンのビクトリア駅に着いた。
巨大なドームに覆われた広大な駅のプラットホーム。
そこには、大紋がケンブリッジ大学に留学していた頃の友人が出迎えてくれた。
博多港を出る前に、大紋が電報を打っていたのだ。

「ハルマ!久しぶりだ。
よく僕を頼ってくれた。
会えて嬉しいよ」
プラチナブロンドの髪…背の高い、如何にも知的で温和そうな青年は大紋と抱擁を交わした。

「…ジェイムズ。
今回はなんと君に礼を言ったら良いか…」
さすがの大紋も言葉を詰まらせた。

「何を言っているんだ。
同じ寮の釜の飯を食った仲じゃないか。
…て言う表現が日本にはあるんだろう?
ね?アキラくん…だよね?」
にっこりと笑ったその青い瞳は、人懐っこく優しげで暁はほっとした。

「暁。紹介しよう。
ケンブリッジで親しくしてくれた友人のジェイムズ・ハーコートだ。
僕と同じ弁護士で、ロンドンで法律事務所を開いている」

「アキラくんのことは何年も前から手紙で聞かされていたよ。
…しかし、ドラマチックでスリリングな展開になったね。
ハルマがこんなにも情熱家とは知らなかった」
暁に握手を求めながら、ジェイムズは眼を見張った。
「…これは美しい…!
美の女神アフロディーテもかくや…というような美青年だね。
ハルマの気持ちが今、少し分かったよ。
よろしくね、アキラ」
陽気な軽口は、決して嫌な感じはしなかった。

「…よろしくお願いします。
縣暁です」

緊張しながら握手を交わす。
…英語は聴き取りは出来るが、会話となるとややぎこちなくなる。
英語にももっと慣れなくては…。
ここで、これから生きてゆくのだから…。

ジェイムズはにっこりと笑いながら、告げた。
「早速だが、君たちの下宿にゆこう。
なかなか良い部屋を見つけておいたよ。
…ベイカー街にあるテラスハウスだ。
君たちに気に入ってもらえると良いのだがね」


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