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あの海の果てまでも
第6章 秋桜の涙 〜絢子の告白〜
「…悪い…虫?」
不思議そうな方子に、梁子は声を潜める。
「…ここだけのお話。
私は大紋様の恋人をなんとなく存じておりますの。
大紋様は礼也さんの無二のご親友ですからね。
お親しい方たちのお貌も周知しておりますのよ」
「…まあ!」
「はっきり申し上げて、その方は大紋様に相応しい方ではありませんわね。
大層お美しいけれど、とても不吉で災いを齎すような方…。
このままご一緒にいたら、大紋様のお貌に泥を塗ることでしょう」

方子の息を呑む気配が感じられる。

「…けれど、大紋様が愛していらっしゃるのならば仕方ありませんわ…。
愛し合うお二人を引き離す訳にもいきませんもの…」

梁子が鼻先で嗤う。

「愛だなんて。
そんな脆いもの、この世の中に果たしてあるのでしょうか?
永遠の愛だなんて砂の城のようなもの。
何かあればすぐに流されて儚く跡形もなく消えてしまうものですよ」

梁子が方子の手を握りしめる。
白い整った貌はまるで冷酷で邪悪な魔女のようにも見える。

「方子様。どうかこの件は私にお任せくださいませ。
決して悪いようにはいたしませんわ。
私は何より絢子様のお幸せを願っておりますのよ」

魔女の呪文のようなその言葉は、絢子を絡め取り呪縛したのだ。


 
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