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あの海の果てまでも
第6章 秋桜の涙 〜絢子の告白〜
…お母様と男爵夫人が私と春馬様の話をされている…。

もはや挨拶どころではない。
けれど、その場を去ることも出来ない。

…この話の行方が気になって仕方がない。

絢子は固唾を飲んでドアの隙間を見つめる。

「…ええ。
絢子はすっかり大紋様に夢中で…。
あの大人しい娘が一途に大紋様に想いを伝えたようなのですよ。
…けれど、大紋様に自分には愛するひとがいるから…と断られたそうなのです。
可哀想に…絢子はそのことがショックで私の睡眠薬を飲んで死のうとしたのです…。
…そんなにも大紋様をお慕いしていただなんて…私は娘が不憫でならないのです…」

方子の啜り泣きの声が聞こえる。

…違う…違うの…お母様…!
そうではないの。
私は死のうとなんてしていないの。
ただ、何もかも忘れたかったから…
目覚めたら春馬様がそばに居てくださって…
それから毎日のようにお見舞いに来てくださるのが嬉しくて、本当のことが言えなかったの。

今すぐサンルームに飛び込み、そう言わなくてはならない。
けれど、身体が動かない。

「まあ、方子様。
そんなにお泣きにならないで。
…本当になんて健気でいじらしいお嬢様かしら。
春馬様もあんなに可愛らしいお嬢様に好かれて、嫌な気はなさらないはずだわ。
やはり春馬様には絢子さんがお似合いだとわたくしは思うのよ。
お二人はきっと素晴らしいご夫婦になることでしょう。
またとない良いご縁に違いないわ」

やや芝居掛かった口調で、梁子は優しげに慰める。

…それには…。

ドアの隙間からわずかに垣間見える梁子の美しいが酷薄な瞳が細められる。
絢子はその余りの冷たさに、はっと息を呑む。

「…悪い虫は退治しなければ…ね…」




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