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あの海の果てまでも
第7章 秋桜の涙 〜新たなる夜明けへ〜
「…男爵様…。
お優しすぎますね…」
万感の思いが籠った声を白戸が漏らす。

「…さあ、どうかな?
優しいのは冷たいの裏返しだと、言われたことがあるよ」

…貴方はお優しいのではないわ。
他人への欲求や執着が薄いのよ。
喉から手が出るほどの欲望や愛を、貴方は感じたことがあるかしら?

…バルコニーへ吹く夜風が、ベルベットのように纏わりつく真夏の夜…
その美しいひとは、そう言って高貴な波斯猫のような蠱惑的な瞳を細めた。

…偶然夜会で遭遇した、巴里留学から一時帰国していた麻宮侯爵の令嬢・麻宮光だ。

梨央との婚約解消の一件は先刻承知のようだった。
彼女と梨央は従姉妹同士だから、至極当然だろう。

けれど、その言葉に礼也は微かに眉を顰めた。
従姉妹にしろ、旧知の仲にしろ、随分失敬な発言だと思ったからだった。

礼也は穏やかな微笑みを浮かべたまま、光を見つめる。
どんな時でも恭しく婦女子に礼を尽くすのが紳士たる役割だからだ。

『…光さん。
お言葉を返すようですが、私は梨央さんを心から愛しておりましたよ。
婚約解消をしたのは、それが梨央さんの幸せだと判断したからです。
私は泣く泣く身を引いたのですよ』

礼也の言葉に光は形の良い薄い口唇を吊り上げて笑った。
『如何にも品行方正で非の打ち所がない紳士の貴方に相応しいお返事だこと』

…けれどね、礼也さん。

光はもたれ掛かっていた大理石のバルコニーから身を起こし、しなやかに礼也の前まで歩み寄る。
黒い極上の絹糸のような断髪が揺れる。
その華奢ですらりとした見事なプロポーションに沿うような黒タフタのドレスが僅かに衣擦れの音を奏でる。
…ゲランのミツコがふわりと風に混じる。

…近すぎる…まるでキスをするような距離まで近づくと、光は甘い吐息混じりで囁いた。

『…それは貴方が本当の恋をしたことがないからよ』





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