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誰も知らない君の顔
第8章 絡みつく・・・
「はい・・・」

「こ、こんばんは・・・」

伏せ目がちで少し緊張した面持ちの結がそこにいた。

「どうぞ」

「お邪魔します・・・」

中に入る彼女の仕草はやはりお嬢様。靴の脱ぎ方にも品がある。適当に放置された俺の靴まで直し、トコトコと後を追ってリビングに足を踏み入れた。

「コーヒーでいい?インスタントだけど」

「はい・・・」

食堂の時より空気が重い。ここまで重いと溜め息しか出ない。

「どうぞ」

「すみません・・・」

そんな空気の重さに耐え兼ね、家でしか吸わないタバコを持ってベランダに避難した。

「はぁ・・・」

話があると誘ったのは俺なのに・・・ビビッて逃げているのは俺自身だ。情けない話だが、こんなに悩んで溜め息を連発した事なんてあったか?

ない・・・。

一人の女をこんなにも考える事は今の今まで一度もなかった。
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