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DOLL
第2章 お市の場合―戦国の夢―
【兄妹】【俺様】【甘め】



戦国の世の常として、いつかはどこかの大名の元へ嫁がなければならない。

所詮、私は兄の天下取りのための道具にすぎない。


私が幼い頃、兄は殆ど城にはいなかった。

たまに城に帰ってくる兄の姿は、膝までの短い丈の着物に、帯替わりの荒縄。
その荒縄に太刀を一本差して、その回りに瓢箪や麻袋をぶら下げているという、およそ大名の跡取りとしては相応しく無い姿だった。


でも兄は帰ってくると必ず私に会いに来てくれた。

「市は可愛いな。」
と言いながら私の頭を撫でて、私の両手の上にぽんっと土産を置いてくれる。

綺麗な毬やら、可愛らしいお手玉、珍しい双六などをくれたこともあった。

そして、私を抱き上げてくれた。

お世辞にも綺麗な格好とは言えない兄だが、何故だか抱き上げられるとふわりといい香りに包まれる。


そして、
「市、大きくなったな。」
と、もう一度頭を撫でて、すぐに部屋を出ていってしまうのだった。

いつしか、お市はこの風変わりな兄が、会いに来てくれるのが一番の楽しみとなっていた。

一度、
「兄上が遊びに来てくださることが、市の一番の楽しみです。」
と言ったことがあるが、兄は、
「であるか。」
と一言いっただけだった。


変わっていると言えば、兄は服装だけでなく、性格も変わっていた。

刃のように鋭利でありながら、雲のようにふわふわと掴み所がなかった。

何を考えているか分からない。
何を仕出かすか分からない。
そんな兄のことが、好きでたまらなかった。


それがもしかするも恋なのではないかと、思ったのは十三歳になった頃にだった。
密かに思い続け、叶わぬ恋と知りながらも、その思いは強くなるばかりだった。
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