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恋する妻が母になって
第1章 ただいま
「お帰り!」
僕がカギを開け玄関に入ると、郁(フミ)が息子の遥(ヨウ)とリビングから出て来ました。ヨウは僕を見ると満面の笑みで郁の手をほどき、抱っこをせがみました。僕はヨウを抱き上げ、ただいまと声を掛けました。それは夏の終わり、9月末の残暑厳しい金曜の夜でした。

「パパ着替えてくるから、待ってて」
僕がそう言うと郁に促され、ヨウはリビングに戻って行きました。僕はマスクを外し洗面所でうがいと手を洗いました。それから寝室に入ると、スーツを脱いでいつものスウェットに着替えました。寝室は夫婦のダブルベッドを奥に、手前にベビーベッドが置いてあります。壁にはヨウの写真がいくつも飾ってあります。ヨウは1歳半を過ぎ、少しずつ言葉がわかるようになっていました。

「お帰りなさい」
膝の上にヨウを乗せ、悠(ユウ)がリビングのソファに座っていました。僕の姿を見ると、Tシャツに短パンのラフな姿の悠が立ち上がり、185センチの長身を曲げて挨拶してくれました。キッチンでは白いキャミワンピを着た郁が夕食の用意をしており、TVから子供向けアニメのテーマソングが流れています。どこの家庭でもある、ほのぼのとした週末の風景でした。

あれから4年の歳月が過ぎ、僕は34歳になりました。妻の郁は28歳でヨウを産み、先月30歳になったばかりです。そして妻のパート先の学生アルバイトだった悠は24歳になり、理系の大学を卒業し大学院に通っています。

「悠、就職決まったって」
夕食の際、郁が嬉しそうに話しました。郁の隣で、悠が少し照れたように微笑みました。僕は食卓に並ぶごちそうの訳に、やっと気が付きました。

「おめでとう」
僕は隣のヨウの食べこぼしを拾いながら、笑顔でそう伝えました。それを聞いてヨウも意味もわからないまま「おめれと!」と、口にご飯を頬張ったまま叫びました。食卓全員が一瞬で笑顔になり、ヨウもなぜか得意げに笑っていました。僕たちは和やかに会話をしながら、悠の就職を祝いました。郁だけでなく、ヨウにとっても悠は大事な存在です。

そして夕食も終わり、そろそろヨウを寝かしつける時間になりました。その前にヨウを風呂に入れるため、郁が寝室で準備をしています。僕が食器を集め洗い出すと、当然のように悠が手伝ってくれました。僕たちは隣に並んで、食事の後片付けをしていました。

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