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妄想短編集
第1章 抱きしめてほしいだけ
私はとうとうこの言葉を発してしまった


「抱きしめてもよろしいですか…!」


『えっ?』


私の真剣な気持ちとは裏腹に心底驚いたような、拍子抜けしたような声が帰ってきた。


『本気で言ってる?』


「失礼なこと、道徳に反してるのは重々承知しています。」

「どうしても今精神を安定させるならこれしかなくて、…失礼なことを言ってすみません。頼れるの部長しかいなくて。でも当たり前ですよね、既婚者にお願いすることではなかったです。」



『うーん…』



『ここじゃ厳しいから…ちょっと来て。』



隣の倉庫室に呼ばれた。
この部屋は大きくはないが窓がなく人が来ることも少ない。




『それじゃ、試してみる?』



「え?いいんですか?」


自分から切り出したがOKしてくれるとは思ってなかったのか、驚いてしまった。




『グレーなところはあるけど、最近元気もなく辛そうにしてるし、それで元気が出るなら。』



はい、どうぞと少し手を広げて受け入れる体勢をとる部長。


「し、失礼します…」


手を広げてくれた脇から自分の手をするりと入れ、包み込むように抱きしめた。部長の右肩部分に自分の顔をうずめ密着する。
中肉中背の少し厚みのある体と部長の体温を感じながら心地よくて不意に息がもれる。 



「はぁ…」


耳元に近いところの声だったからなのか、部長が少し驚いていた感じだった。そのあとにゆっくりと私の背中に手をおいて少し力を入れ抱きしめ返してくれた。


「ん…」


人に抱きしめられたのは何年ぶりだろう。
この体の中から満たされていくような、明らかに心が潤うような感覚になった。



そのまま数分抱きしめてもらって、私は少しずつ離れた。


「部長、ありがとうございます。」

「おかげでとても元気になりました。こんなお願い部長にしかできなくて…本当にありがとうございます。」



『そぉ?それなら良かったけど。』



部長は少し複雑な顔をしていたが、満足してくれたなら良かったと安心した様子だった。
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