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cape light
第3章 会いたい人とか会いたくない奴らとか
 長岡花火当日。
 僕は飛燕の風呂に浸かっている。
「坂口君、今のうちにお風呂に行ってきな。でないとお風呂になんか行くことできなくなるくらい忙しくなるからさ。昼の休憩を三十分延ばしてやるよ」
 店長の久須美、たまにはいいことを言う。
「サンキューです社長」
 過酷な労働をしているので、僕は有難く店長の言葉に甘える。で、飛燕の四階にある展望風呂に浸かっているのだ。
「お兄さん、そんなに体をごしごし洗って痛くないか」
 知らないお爺さんが僕にそう言った。ラブホだけでなく、飛燕でも僕は体をごしごし洗う。
「ノープロブレムです。全然痛くありません」
「若いっていいね」
「……」
 どう答えていいのかわからなかったので、僕はそのお爺さんに笑い顔だけ向けた。
 冒険をしなかったらこんな言葉のやり取りをすることなんてなかったのだろう。東京で大学生活を普通に過ごしていいれば、見知らぬお爺さんと言葉を交わすことなんかまずない。
 風呂に浸かりながら僕は花火についてもう一度自分の心の中を覗いた。断っておく、坂口家のくそじじいとくそばばぁのことではない。
 僕が幼稚園に通っていたとき、一人のおばあさんが僕の幼稚園にやってきた。そのおばあさんは戦争体験を話してくれたのだ。おばあさんは空襲の話をしてくれた。
 当時おばあさんが暮らしていた村から三十キロくらい離れた街にアメリカ軍の爆撃機がやってきた。爆撃機は容赦なくその街を破壊し続けた。爆弾が落とされる音が聞こえた。地面が何度も何度も揺れたとおばあさんは話してくれた。おばあさんは防空頭巾を被り、防空壕に隠れた。数時間後、爆弾が落とされる音が止み、地面も揺れなくなった。それでもおばあさんは防空壕から出なかったと言っている。それからまた数時間が経った。おばあさんは恐る恐る防空壕から出た。そして爆弾が落とされた街の方に目をやった。そのときおばあさんは息ができなくなったと言っている。その街の上空が真っ赤に燃えていたのだ。おばあさんは初めて赤い空を見た。赤い空が涙でにじんだ。街の人たちは今どうしているのか?  
 逃げてほしい、逃げて逃げまくってほしいとおばあさんは祈った。だが、おばあさんの祈りは通じなかった。その空襲で千五百人の尊い命が奪われた。
 おばあさんは最後にこう言った。
「だから私は赤い空を見ることができないんです」
 と。
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