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女優なんて…
第1章 ロケ隊がやってくる
「次の廃品回収はいつだったかね?」
九条吉武さんが戸籍課の受付口で
そんな事を聞きに来て業務の妨げをしていた。
九条さんは三年前に奥さんを亡くされてから
すっかりアルツハイマーが進行してしまい
人恋しくて寂しくなると役場を訪れては
廃品回収の事ばかり訊ねてくる。
「いや、ですからね、おじいちゃん
ここは戸籍課なんです
うちの担当ではないので、そんな事を訊ねられても困るんですよ」
もう、いい加減に勘弁して欲しいと
九条さんに捕まってしまって自分の仕事が出来ずに戸籍課の男は手を焼いていた。
そこへ自治会に配布する「村だより」をコピーするために役場で一台しかないコピー機のところへ有明優美子がやってきた。
「あ、有明さん!いいところに来た!
このおじいさんを納得させてあげてよぉ」
これ幸いとばかりに
戸籍課の男は優美子に九条さんの相手をするように振ってきた。
「私、広報課なので…
九条さんのお相手は生活課に回してください」
「そんな堅いことを言うなよ~
廃品回収の日にちのお知らせも
言うなれば広報課の仕事みたいなもんじゃない」
そう言うと「おじいちゃん、あの女の子が丁寧に教えてくれますからね」と
無理やり私に九条さんを押し付けて
自分はさっさとデスクに戻ってしまった。