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女優なんて…
第1章 ロケ隊がやってくる
『仕方ない…いつもの事だし…』
やれやれとため息をつきながら
私は九条さんに近づいた。
「九条さ~ん、どうされましたか?」
「いや、廃品回収の日っていつだったかと思ってね」
農業が主産業のこの村では
70歳を越えたばかりの九条さんは
まだまだ働き盛りと言えなくもなかったが
三年前に奥さんを亡くされてからは
痴呆症がかなり進行してしまい
独り暮らしがそろそろヤバイかもと思われていた。
「廃品回収はまだまだ先よ
日にちが近づいてきたら教えに行ってあげるから安心してね」
「そうかい?そりゃあ安心だ」
九条さんはニコニコしながら帰って行く。
このように安心させても
しばらくするとまた「廃品回収はいつだったかね?」と再び役場にやって来るのだ。
やれやれと思うまもなく
広報課のデスクの電話が鳴り響いた。
どうせ秋祭りが近いから
市の方に大々的に宣伝して欲しいという
村長からの依頼に決まっている。
「は~い、役場の広報課でぇ~す」
都会の大学に通っていた頃には
考えられないほどのんびりした口調で電話対応してしまう。
まさしく『朱に交われば赤くなる』というやつだと優美子は自分を卑下した。