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夏の対価
第1章 夏の対価
 父は健在だ。面倒だったからそう言っただけだ。しかしまた

「ちょっと」

 肩を掴まれた。

「なんですか」
「なんですかはわたしの方よ。このコーヒーはあなたが飲んで」
「いりません。コーヒーアレルギーなもので」
「えっ。そうなんだ」
「ええそうです。夏に革ジャンなんて暑くないの?」
「暑いよ。でもいざという時に守ってくれる」
「なるほど。じゃあ僕はこれで」

 やっぱり美人だと思ったが、そんなことよりも早く帰って寝たかった。夜勤のあとにこの暑さはこたえる。しかしまた肩を掴まれた。

「借りは作りたくない。だからこれを」

 そう言った彼女は指から抜いたリングを僕へ。十字架モチーフのシルバーの指輪だ。内側にブランドの刻印が見えた。

「たかが缶コーヒーの対価がクロムハーツ?」
「ええ」
「受け取れないよ。こんな高価な…」
「わたしは構わない。じゃあもう行くわ。これから海まで行くの。コーヒーありがとう」

 
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