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ラスト・レター
第1章 ラスト・レター
 引っ越し業者の若者から手渡されたのは、半透明の、薄いビニールケースに入った封筒だ。居間にあった家具の後ろから出てきたという。白い封筒の表には私の名前が書いてある。その筆跡に見覚えがある。

 まだ運び出されていないキッチンの椅子に腰を下ろし、ビニールケースを開けて封筒を取り出す。封はされていない。中にはきちんと折り畳んだ白い便箋が数枚。読もうとしてから老眼鏡が無いのに気がついた。

「どうかしたの。お父さん」

 ポケットに入れたはずのメガネを探しながら、ドアから顔を出した長女に向かって、なんでもないよと返事をする。

 メガネはちゃんとポケットにあった。さっき見つからなかったのはきっと動揺していたからだろう。

 薄い便箋を広げる。自分でもわかるほどに手が震えている。仕方があるまい。その手紙は、五年前に病気で亡くなった妻から私へ宛てたものだったから。
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