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妹やその友達と、いろいろあったアノ夏のコト
第6章 いじらしい悪あがき
「お前らガキのすることなんか、イチイチしるか。だがなぁ、店にいれば華火の気持ちは嫌でも気づく。それだけのことだ。そして、お前はアホみたいにずっと無関心だったな。そうだろ?」
「……!」
まだ聞きたいことがあったはずなのに、言葉を発することができずにいた。
そんな俺に、マスターは言う。
「とにかく帰れ。酒池肉林の別荘にな。お前には、そっちの方がお似合いだ」
バタン。
今度こそ閉ざされたドアの前で、俺は呆然と立ち竦むことになった。すると、店の中からは「うわああん」という華火の泣き声と、それを宥めすかすマスターの重厚な声音が漏れ聴こえてきた。
俺は居た堪れなくなって、店の前から離れると車に乗り込む。だけど、すぐには走り出せずに、暫く店の方を漠然と眺めていた。
いつも働く馴染みの店構えが、今ばかりはどこか違って見える。俺はまた華火と一緒に、ここで笑って働くことができるのだろうか。その自問の答えは、限りなく否定的に傾いていく。
ピリリリ――。
突如、鳴り出したスマホ。通話相手さえ確かめることなく、反射的にそれに応じた。
「……はい?」
明らかに気のない声で応答した俺の耳に届けられたのは、意外な人物の声音である。
「涼一さん、どういうつもりなの?」
「え? な、なにが……?」
聞き覚えのある声が誰のものか、なにを言われているのかを察するより先に、相手はこう続けた。
「瑞月ちゃんたちをほったらかしにして、一体どこで誰となにをしているのかと聞いているのだけど」
俺はようやくハッとして、相手の名前を口にする。
「さっ、五月女(さつきめ)さん!?」
この後、唐突に表れた五月女さんと、俺は二年ぶりに再会を果たす。
その時、その名とその女(ひと)との過去が、皮肉にも高校時代の自分と今日の華火とを結びつけることになるのだった。
【第六章おわり】
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