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妹やその友達と、いろいろあったアノ夏のコト
第8章 土埜の気持ち
涼一さんに言われるまま目を瞑っていると、暫くして耳元で囁きかけられた。
「今、なにが見える?」
「夕陽の残像が、見えます。だけど……どんどん消えそうになって」
「闇に、呑まれていく?」
「は……はい」
「でも、大丈夫」
「――!?」
夕陽の残像が闇に溶けて、胸の中には不安が渦巻こうとしていた。
そんな時に、突如として塞がれた唇。
涼一さんからのキスは、どこか透き通って思えた。
同じ日、厩舎の裏でしたキスとも、それまでにした、どのキスとも違っている。軽いというのでもなくて、優しいというのとも違う。
合わさった舌先が、不思議な安堵をくれる。無理に求め合う必要なく、終わることに寂しさを覚えることもない。
程なくして二人は同じタイミングで、そっと唇を離した。
「もう、目を開けていいよ」
「……はい」
夕陽はその姿を徐々に、山々の尾根に隠そうとしている。
「もう、消えそうだ」
「そう、ですね」
それが哀しいようでもあり、けれどそれだけではなくて、複雑な感情を与えてくれる。
「でも、俺はこの先もずっと憶えているから」
「え?」
「つっちーと一緒に、この夕陽を見たこと」
「――!」
この時、私の中で沸き上がったものが、涙に形を変えると、瞳から溢れ出した。
それまで涙というのは、なんの救いもないものだと思っていた。なんの慰めにも、ならなかった。それでも堪えきれずに流す涙は、いつでも冷たかった。
でも、今の涙は違っている。
「わ……私も」
温かい涙が頬を伝った。
泣きながら、けれど、私は笑顔を向ける。
とても大好きな、涼一さんへ。
【第八章おわり】
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