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妹やその友達と、いろいろあったアノ夏のコト
第8章 土埜の気持ち
すると――
「――あ!」
自然と、声が上がる。
それくらいの夕陽が、そこにはあった。
「……」
思わず、目を奪われてしまう。
綺麗だとか、感動的だとか、そいうい想いの前に。
まず、その夕陽は紅かった。
私の視界を、有無を言わさずに染め上げていた。
やがて瞳が、その光に慣れたころ。
「ハハハ、別に絶景というわけでもないんだけど」
涼一さんは、少し照れたように言った。
山の中腹に、ぽつんと顔を出したような岩場。周囲の小高い山々は、ところどころで木々が切り倒され、どこか不揃いで不格好なシルエットをしている。
山間には朽ちかけた民家がちらほら。忽然と現れたような高く無機質に思える電波塔。夕陽を反射させるため池も、よく見れば淀んで濁っていた。
それは確かに、なんとも様にならない景色。けれど夕陽の光は、なんというか平等であり、辺り一帯を紅く染め上げている。
それだけのことが今、なんともいいようのないくらい、この心を揺らす……。
「観光地でもなんでもないし、穴場ですらない。でも俺は、この夕陽に……」
「夕陽に?」
「いや、上手く言えないな。なにを言っても、単なる綺麗事になってしまいそうで……だけど」
涼一さんは私を見つめ、こう続けた。
「この夕陽を、つっちーにも見せたいと思った。一緒に見たかったんだ」
「私と……?」
改めて見つめた夕陽は、涼一さんの言葉と相まって、私の感情を突き動かそうとする。
いけない――駄目。私はまた、頭を振ろうとした。
でも、その時。
「もしも、この夕陽すら、つっちーの悪夢を呼び覚ますのなら、その時は――」
「……?」
「つっちー、少しの間、瞳を閉じて」
「は、はい。でも……」
「闇が怖い?」
「いいえ」
木葉ちゃんのように、単に暗闇が怖いわけではない。私が恐れるのは、自分の奥底に沈む心の闇だから。