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妹やその友達と、いろいろあったアノ夏のコト
第9章 文水の事情
「ほぉら、周りから変に思われちゃうよ」
駅の雑踏の中、人目を気にして高坂さんは俺から離れようとする。
その刹那、俺は考えるよりも先に、彼女の身体を抱きすくめていた。
「かんりにん……さん?」
「違うんだ」
「ち、違う?」
行き交う人々の中で、俺は高坂文水を抱きしめている。
まだ伝えるべき言葉は見つからない。
それでも、このまま別れたくはなかった。
「管理人さん、ごめん。私には資格がないの」
「だから、過去のことなんて、どうでも――」
「そうじゃない……。私、まだ管理人さんに話してないことあるの。聞けば、きっと失望する」
「そんなの、聞いてみなくちゃわからないだろ」
「だけど」
「いいんだ。そんなの、俺の方にだって、いくらでも――だから!」
「!」
「この後、一緒に……ゆっくり、気の済むまで話そう。それで、今の気持ちが気持ちが変わらなければ――その時は」
「そ、その時は……?」
俺はしっかりと彼女を抱いたまま、静かに耳元で語りかけた。
「コーヒーを飲もうよ、二人で……」
「……!?」
「ミルクもシュガーも、たっぷりと入れて」
絶え間なくコツコツとした人々の足音と、構内に鳴り響くアナウンス。それらが、他人事のように遠のいていくようだった。
この夜、俺たちは別荘に帰らなかった。
【第九章おわり】
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