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妹やその友達と、いろいろあったアノ夏のコト
第9章 文水の事情


「高坂さん!」

 背中を向けたままの肩を掴み、強引に彼女を振り向かせた。

「どっ……どうしたの、急に?」

 驚いて俺を見つめている彼女。その両肩に手を置いたまま、俺は次の言葉が見つけられずにいる。

 伝えたいことは、ある。いろいろ。だけど、それらが順を成してくれない。はっきりとした形をみせてくれない。

「……ッ!」

 情けない……。こんな風に呼び止めておきながら、俺はなにも……。

 でも、彼女は過去を振り払い、未来に歩き出そうとしている。だったらもう、俺の言葉なんて必要しないのかもしれない。

 そんな風に思っていた時だった。

「ありがと、ね」

「え?」

「まだ、ちゃんとお礼してなかったから。つまらない過去なんて、もう無理にでも振り払ってやるんだから。こんな風に思えるのも、さっき話したことも、ぜんぶ管理人さんのおかげなんだよ」

「そ、そんな……俺なんて、なにも」

「ううん、ありがと、沢山。なにより、私のこと好きだって、言ってくれて」

「!」

 それはさっき、聞かれたら困ると感じた方の……。

「嬉しかったよ、とても」

 高坂さんの真っすぐな感情が、俺の心を震わせている。それなのに――

「でも、わかってる」

「え?」

「ウフフ、そんな不安そうな顔しなくても大丈夫。勘違いなんてしてないから。あれは管理人さんの優しさから出た言葉、なんでしょ?」

 そうなのか、あれは……?

 この場に至って、俺はまだ、自分の気持ちを見つけられないのか。

 確かに様々な事象が、俺を取り巻いている。しかし、だから答えが導けないのだというなら、それは単に言い訳ではないのか。

 答えは、もっとシンプルなはず……!

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