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妹やその友達と、いろいろあったアノ夏のコト
第10章 木葉の秘密


 私の体験をお兄さんに話して聞かせる時。できるだけ同情を引くことを意識したせいで、自分でも驚くくらい淡々と語ることができた。サイコパスな自分を、演じていたせいもあったのかもしれない。

 でも言葉ではなく頭でイメージする事は、可能な限り避け続けてきた。なのに、今は思い返してみたい。なんとなく、そう感じた。

 一番思い浮かべたくない、あの夜の場面のこと。

「……」

 何人もの男たちに取り囲まれ、感情も感覚も思考すら、たぶん私は放棄しようとしていた。だけど、そうして絶望の淵に沈みかけた時、ベッドの上で私は一人でいる自分に気づく。

 その時、周囲は異様なくらい静かだった。

 そうして、ぼんやりとした視界の中で、私はその人影を見る。

「だ、誰……?」

 掠れた声で、聞くと。

「お、俺は……と、とにかく、もう大丈夫だから」

 その人影は、声を上擦らせながら、言った。

「だい、じょーぶ……?」

「あ、いや……」

 オロオロと狼狽えたその人影が、今――

 記憶の中にあったそれが、段々とお兄さんの姿に重なっていく。

 まるで、イメージによる記憶の上書きのように――。

「もう、私に……近づかない……で」

 私は確かに、そう言ったけれど。

 今なら、はっきりとわかる。

 私は言いながら、ホッとして、眠るように気を失っていたんだ。

 そう、やっぱり、私は――。

 最初からその義務感で縛ろうとした私に、こんな想いをさせるだなんて……。

 だって今、あなたの優しさに乗ってしまったら――

「ねえ、お兄さん」

「なに?」

 あなたが好きになろうとする私は、いなくなっちゃうじゃん。

「たった今の、正直な想いなんですけど」

「うん?」

「私の中で、お兄さんと付き合うのは無理になりました」

「は?」

 鳩が豆鉄砲を食ったよう、そのままの顔をしたお兄さんを見つめて。

「あははは!」

 私は久しぶりに、純粋に笑顔を浮かべているのだ。






【第十章おわり】


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