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落城
第1章 プロローグ
羽柴秀吉の軍勢が城に攻めてきた日、志乃(しの)は城主・丸山勝信に呼ばれた。

鎧姿の勝信の隣には、夫の剣術指南役・宗像清七郎がやはり鎧姿で座っている。

「志乃殿、そなたを見込んで頼みがある。菊千代をこの城から連れ出して欲しい」

「若君を逃がすのでございますか?」

志乃は頭を下げたまま尋ねた。

「そうだ。援軍が到着するまでには時間がかかる。万一のことがあってはならんからな」

「若君をどこへお連れすればよろしいのでしょうか?」

「重久殿のところだ。すでに話はつけてある」

「かしこまりました。宗像志乃、生命に代えても若君をお守りし、重久様のところへお届けします」

志乃は顔を上げた。当年とって24歳。遠国にも聞こえた美しい顔に決意の色が浮かんでいる。

「茜(あかね)を連れていくといいだろう。まだ15だが剣の腕は確か。機転もきく」

清七郎が言った。

「わかりました」

志乃は清七郎に向かって頷いた。

「志乃、頼んだぞ」

清七郎は、いつものようにニッコリと微笑んだ。

毎日見てきた大好きな笑顔――。もしかすると、これが今生の別れになるかも知れない。武家の娘に生まれた時から覚悟はできている。

「あなたもどうかご無事で。ご武運を祈ってます」

志乃はニコリと微笑み返した。
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