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落城
第3章 御開帳
「ヨイショ、ヨイショ」

男たちが戻ってきた。大きな戸板を運んでいる。それを木格子の外に置いた。変わった戸板だった。四隅に短い棒が立っている。

「志乃殿、この上で戦おうと思って持ってきました。ほれ、このとおり、鹿の毛皮が張ってありますから、寝心地は悪くありませんぞ」

ニヤニヤしながら章介は毛皮の表面を撫でた。

志乃はもう泣いてなかったが、不気味な戸板を見ると、ギョッとしたように顔を引きつらせた。それでも気丈に、「温かいお心遣いに感謝します」と皮肉っぽく言った。

牢の扉が開けられ、悪太郎が入ってきた。

「さあ、奥様、出てきてください」

口元に下卑た笑いを浮かべ、志乃に向かって腕を伸ばしてくる。

「待ってください」茜が二人の間に割って入った。「志乃様に淫らなことをするのはやめてください。この通りです」

茜は悪太郎に向かって土下座した。

「邪魔だ。どきな」

悪太郎が茜の肩を押した。でも茜は動かなかった。

「お願いです」と言って土下座を続けた。

「やれやれ。だったらお嬢さん、あんたが代わりにやるか」

「それは――」

茜は言葉を詰まらせた。

「できないだろう。だったら、大人しくしてな」

悪太郎は茜を蹴った。

「あっ」

茜の華奢な身体が転がった。

「やめて。乱暴はしないで」志乃が叫んだ。「言う通りにしますから、茜に暴力を振るうのはやめてください」

志乃は立ち上がると、茜に向かって、「あなたはそこで大人しくしていなさい」と言った。

「志乃様――」茜は涙を流した。そして身体を起こすと「どうかご武運を……」と肩を震わせながら言った。

「あなたも。私に万一のことがあったときは若君のこと頼みましたよ」

「はい」

茜は頭を下げて、扉を出ていく志乃を見送った。
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