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紅い部屋
第1章 9月上旬・金曜日−扉のむこう−
ここで間違いない。
“開店”と筆書きされた木札にそっと触れた。
誰かが投稿した数少ない画像を記憶している程何度もネットで見た黒い扉。
扉の内側はきっと紅い革張りだ。
滴り落ちそうなほど手のひらに汗をかいている。
やっぱり入るのやめようかな…
いや、せっかくここまで来れたのに。
…でも足が、手が、全身動かない。
胸の前で握った指先が冷たい。
コツ、コツ‥
地上から繋がっている狭い階段を降りてくる足音が聞こえた。
誰かくる!!!
心臓が痛いくらいバクバクする。
でも隠れるところはなく
なるべく壁側に寄って足音のする方に視線をやった。
30代くらいの、サラリーマン(たぶん。ワイシャツを着てビジネスバッグを持ってるから)が降りてきて、私に目を止めて立ち止まった。
「入らないの?」
携帯を手にした指で扉を指す。
低いけど、ハッキリ通る声。なぜだか胸がギュッとなる。
「あの、えと…すみません…」
自分でビックリするくらい声がかすれてて恥ずかしい。
「先どうぞ」
サラリーマンが扉を開けた。