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父子の夜
第1章 欠けた家族
薄暗い部屋の中央に敷かれた布団の上に女が安らかな顔で横たわっている。
「残念ですが…」
「母ちゃん!母ちゃぁん…起きて!ねぇ、起きてよぉ!」
医者が最期を告げる言葉を待たずに、女の一人息子であった雄平が泣きながら母の肩に手をかけ激しく揺さぶる。それを、女の夫であり雄平の父親でもある鉄平は、布団の傍でただ、ぼーっと眺めていたが、医者に頭を下げ、雄平の小さな体を女から引き離した。
十分な治療もさせてやれず、いずれこのような瞬間が訪れる事はわかっていた。わかってはいたが……。
「ううっ…元子…ごめんな…ごめんなぁ……」
「父ちゃぁん……うわぁぁぁぁん」
鉄平の頬に一筋の涙が光り、雄平は鉄平に抱きついて泣いた。しかし、鉄平の腕が雄平を抱き返す事はなかった。