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第1章 フレンズ

緑色に輝く銀杏並木のスロープを、
富樫克巳が息を切らして走ってくる。

木に寄りかかって待っていた私の前で立ち止まり、
克巳は微笑んだ。


白い歯が、綺麗。

頬に伝い落ちる汗が
五月の陽光できらりと光った。

「紗奈、お待たせ。話って何？」

「実はちょっと相談。文香のことなんだけど」


克巳はきょとんとした顔をしてから、
私の頭をポンと叩いた。

「なんだよ？親友と喧嘩しちゃった？」

「ちがうの、文香が克巳を好きで告白したいって」



頭の上を柔らかく触れていた手が止まり、
するりと落ちた。

「え？」



「克巳さ、
文香のこと可愛いって言ってたよね。
好きな子もいないんでしょう？

文香はいい子だから、
付き合ってみて欲しいの」



克巳の顔から、
微笑が剥がれ落ち、無表情になった。

「そうか…それは紗奈の願いなのか」

「そう。私からのお願い。親友の恋を成就させたい」


克巳はくるりと背中を向け、
足元の小石をつま先でいじりながら低い声で言った。

「分かった」


克巳はそれから、何も言わず校門にむかって、
もと来た道を戻ってキャンパスを出ていった。