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担当とハプバーで
第2章 危険な好奇心
きっと面倒な客だって思っただろうに。
優しい言葉と響きにぞわぞわする。
「まだこっち向いてくれねえの?」
ずるい。
ずるすぎる。
そんなに切ない声まで出せるなんて。
そうっと見上げると、悪い笑みがそこにあった。
「はい、俺の勝ちー」
少年のような言い方に笑いが漏れてしまう。
「なにそれ」
「俺の隣に座っといて、一分と視線反らせると思うなよ」
録音したい。
脳内に永久保存しよう。
「はははっ、その顔。ほーんとファンだよな」
「言葉が全部好みなんだもん」
ゴクゴクと焼酎を半分のむ。
さっきよりもずっと美味しく感じる。
「今日ね、仕事が大変だったの」
「おやまあ、可哀想に」
ちゃらけた言い方に脱力してしまう。
ソファの背もたれに肘を乗せて、体ごとこっちを向く。
「何があったの」
「コールセンターなんだけど、今までで初めてってくらいに問題が起きて。結構なクレームが三件くらい来たのね。報告上げたら確認事項もいっぱい出てきて、一日がかりで対応して……」
ああ、なんだろう。
こういうの、祥里が聞いてくれたんだよな。
二年前くらいまで。
寝る前とか、エッチの後とか。
ちゃんと仕事の話を聞いてくれた時期もあったのに。
今はホストに話してる。
「いっぱい嫌な言葉を聞いた後で、俺のとこ来てくれたのに、説教じみたことして本当ごめん。でも、ありがと。家帰って寝たいくらい疲れてたんじゃない」
「うん」
「帰り道じゃないだろ、ここ」
「うん」
「よく頑張って仕事こなして、よく頑張ってここまで来てくれたな。尊敬するわ」
視界が歪む。
ゆっくりと、カウンセリングみたいに。
心にすーっと入ってくる言葉。
「手、握ってもいい?」
「うん」
ハヤテの大きくて暖かい手がぎゅっと、右手を包み込む。
「大丈夫、俺結構強運だから、ラッキー分けたげる。明日からはめっちゃ楽な仕事が待ってる。あ、でもそしたら俺に会いにくる必要なくなるか。ちょっとはイヤなこと起きるくらいにしとこ」
本当に念を込めるみたいにぎゅうっと。
「ふふふ、後半が格好悪い」
「えー。ニッコニコして良く言う」
営業メールは嘘じゃなかった。
三回目にして一時間も一緒に話せた。
一度は離席したけど、すぐ戻ると言って、新規の客相手だったのか十分もせずに戻ってきてくれた。
嘘つかない人だ。