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担当とハプバーで
第2章 危険な好奇心
帰宅して大きく息を吐く。
なんの音もしない我が家が、現実に引き返してくれる。
祥里はきっと二時間後に帰宅。
夕飯はいらないだろうけど、米だけ炊こうかな。
服をポイポイと脱ぎつつ、今夜を思い返す。
なんて素敵な時間だったんだろう。
ぴったり隣に座って、心地よい会話のリズム。
たくさん笑って、たくさんいい声を聞いて。
裸になって浴室に入る。
メイク落としジェルで顔をマッサージしつつ、まぶたの裏にハヤテの笑顔が浮かぶ。
これは、なんと言う気持ちなんだろう。
推しへの恋ってこう言うことか。
三次元相手だと、なんて生々しい。
顔の造形も、咳払いの仕草も、ふわりと香るコロンも、シャツの陰から覗く筋肉も、全てがあまりに生々しい。
温水で優しくジェルを流していく。
あんなに完璧な男性と、お金を払えば恋人のように隣に寄り添って話ができる。
なんてシステム。
今夜の会計は四万だった。
ヘソクリがすでに十万近く減ってしまった。
それでも安く感じるのは麻痺しているのかも。
だって一万を超える買い物すらここ一年ろくにしてない。
ホテル旅行もしてないし、趣味に散財もしてない。
そうだ。
これは趣味なのかもしれない。
月に十万アプリに課金する人だっている。
推しの声を聞きたいがために。
それと近しいのかもしれない。
手元には何も残らないけれど。
甘すぎる経験だけは蓄積する。
ああ、なんて赤が似合う。
サングラスの向こうの笑った瞳。
髪を洗い流しながら、心臓が高鳴る。
自分は細客でしかないのに、優しい対応。
もし自分が何百万と出せたら、ハヤテの態度は変わるんだろうか。
アフターとやらに行って、デートができるんだろうか。
夜景を前に語らったり。
車でドライブしたり。
腰が抜けそうになって、浴室の壁にもたれた。
「何それ、やばすぎ……」
それはあまりにリアルな映像となって脳裏を占領する。
きっかけの動画さえなければ、存在すら知らなかった相手に、こんなにもドキドキしている。
祥里と出会った頃はこんなに楽しかったんだろうか。
一生一緒にいたいとは、また別の感覚。
ほんの少しずつでも、ハヤテを知りたい。
何が好物なのか、どこで服を買うのか、コロンの銘柄はなんなのか、どんなデートをするのか。
もっと知りたい。