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担当とハプバーで
第5章 呼吸もできない沼の底
「どうする?」
いつまでも呼吸が落ち着かない。
ハヤテは手を離して、飲みかけのグラスに口つけた。
「酒のせいにしたいならもっと飲んでからでもいいけど。俺は色々聞きたいから早く二人になりたい」
色々、のアクセントの強さに、店に通わなくなった罪悪感がざらりと舐められる。
確かに他の人もいる中で仕事の話もできない。
「わ、私も……エイイチ、には慣れないし」
「じゃあ、あの二人が壁を突き抜けるくらい大声上げる前に、入る?」
言い方。
ゆあの痴態を想像してしまい、首を振る。
話したことある二人の行為なんて。
刺激が強すぎる。
ふうっと息を吐いてから、ハヤテの手を握った。
入るってことは、そういうこと。
お酒を飲むだけじゃない。
ここは、そういう場所。
確実に祥里を裏切るってこと。
そのために、来た。
「は、入りたい、です」
言ってしまった。
ハヤテの手がそっと握り返す。
「お姉さん、水二本ちょうだい」
急にスタッフに声をかけるからびっくりした。
カウンター内の女性がペットボトルを手渡す。
それを片手で受け取ったハヤテが、ゆあ達の消えた扉の前に導く。
足がもつれないようにその背中についていく。
いいの、本当にいいのと脳内の声を聞きながら。
「ご利用ですか」
「こちらの乙葉さんと」
ハヤテの言葉にこくりと頷く。
男性は訝しげにハヤテと私を交互に見る。
「乙葉様は初めてのご利用ですが、ご同意の上にて問題ないですか?」
まっすぐな視線に、何か悪いことを咎められているような気持ちになる。
「はい、同意の、上です」
「エイイチ様は」
「俺からの誘いです」
「承知いたしました。タブー事項はご確認済みですね。持ち込みはうちの水だけで。こちらがルームキーになります。ご利用後はシャワーは部屋に備え付けのものをご使用の上、キーの返却をお願いします。乙葉様、緊急時にはベット脇に赤いボタンがございます。スタッフがすぐに伺いますので、ご確認ください」
「は、はい」
キーを受け取ったハヤテが扉を開き、少しだけひんやりした廊下に足を踏み出す。
背後で扉が閉まり、汗がブワッと吹き出すような感覚に包まれる。
「三番、か。一番手前ってのも徹底してるな」
「え?」
「凛音が初心者だから、俺は要注意人物ってこと」
三枚の中で一番前の扉に鍵を挿しながら、平然と。