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担当とハプバーで
第5章 呼吸もできない沼の底
店側の配慮ってこと。
緊急ボタンを押して最初に駆けつけられるように。
ノブを引いて道を譲るように手を差し出したハヤテに、おずおずと部屋に踏み入れる。
「流石に今まであんな萎えること言われたことないけど。セキュリティちゃんとしてる店なんだな」
部屋は八畳ほどのこじんまりとした広さで、仄暗いピンクの壁紙と床、ダブルサイズのベッドにソファとテーブル。
シャワールームの扉。
バスタブと冷蔵庫が無いだけのラブホのようで、その目的のための空間に緊張が蘇る。
ガチャンと施錠音が心臓まで響いたあとすぐ、後ろから抱きしめられた。
「えっ」
間抜けな声を出したのも一瞬で、肩に顔を埋めるようにしたハヤテの体温に腰が抜けそうになる。
唇が首筋に当たったかと思えば、耳たぶに優しく口づけされてびくりと肩をすぼめてしまう。
「やーっと、二人きりになれた」
息だけの囁きにぞわぞわっと背中から腰まで悪寒が駆け抜けて、下腹部の奥がギュッとする。
二人きり。
さっきまでのバー空間とは訳が違う。
合意の上でラブホテルの一室に入ったのと意味は同じ、それも相手は初対面じゃない。
「終電何時だっけ?」
「え、あ、十二時五分とか」
「短いな。過ぎたらタクシーでいいか」
大きな手が腕を掴んで身動きひとつ取れない。
背中にピッタリくっついたハヤテの体から、心拍すら聞こえてきそう。
「あ、あの、話……するって」
「話? ああ、聞きたいこと沢山あるけど、お互い様だろ。とりあえず、何でここにいんのか教えてくれる?」
鼓膜から直接脳を揺らすみたいに声が近くて、息が荒くなってしまう。
「そ、れは……ブログ、読んでから」
「ブログ?」
ハヤテが顔を上げた。
「こういう、ハプニングバーに通って、ストレス発散する主婦の……それで、色んな人とのセックス体験が書いてあって、毎日、読んじゃって……羨ましいなって思って」
無音の室内では間が持たない。
さっきまで流れていたBGMのありがたみに今更気づいても遅い。
「私もこうされたいわ、って一人でまんまと来ちゃったんだ。警戒心とかなかったわけ?」
責められているようで身が縮こまる。
「彼氏の浮気もリアルになってたし……ハヤテこそ、なんでここにいるの。仕事は」
「早退ってやつ」
片腕が解かれたかと思えば顎に手を添えられて、唇が重なった。