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担当とハプバーで
第5章 呼吸もできない沼の底
薄くて柔らかい感触に世界が傾きそうになる。
力の抜けた腰をもう片方の手が支えて、優しく表面を食むようなキスに目を閉じて身を委ねる。
相手が誰かと意識したら気が飛んでしまいそう。
祥里とすらも最後にしたのがいつか覚えていない。
お金を払わないと隣にすら座れないホストなのに。
誰も知らないハプバーの一室でキスをしてる。
緩く押し付けては、小さく開いてなぞり合う。
高揚する気持ちが頭に電気を散らす。
「ん、んん……っや、待って」
舌が触れ合いそうになる前になんとか声を出す。
少しだけ離れた唇が、楽しそうに歪む。
「これだけで立ってられないとか、反応よすぎ」
店で話すくらいに落ち着いた声に、自分だけが息もできないほどパニックになっていることが悔しい。
七つも下の男なのに。
人生で一番気持ちいいキスだったかもしれない。
「だって……信じられない。夢でもありえない……だってハヤテに会えてるのもおかしいのに、こんなの、頭おかしくなりそう」
太ももをぎゅっと閉じないと、疼く下半身が変な言葉を紡ぎ出しそう。
顎にかけられた手の親指が、ツーっと唇を撫でる。
そこに視線を這わせたハヤテが、クッと鼻で笑う。
「店に来なくなったくせによく言う」
あまりにそれが冷たい響きだったから、無意識に涙が溢れて首を横に振っていた。
「違う、違う」
「いいよ、別に。あんなお別れですってシャンパンの入れ方されて、せっかくコアなファンが来てくれたのに。あのあと薄っぺらい動画ファンしか来なくなってさ、物足んなかったわけ」
「本当に違くて……」
ハヤテは身を離して、扉脇に置いたペットボトルを回収すると、ベッド上部の棚に転がした。
その一連の動作を私は突っ立ったまま見ていた。
涙がポタポタと床に落ちる。
ベッドに腰掛けたハヤテは、呆れたように視線を向けた。
「貯金尽きたのかと思えば、固執するから会いたくなかった? 綺麗な理由つけてくれちゃってさあ」
それからギシリと音を立てて仰向けに寝転んだ。
束ねた長い髪がシーツに広がる。
「リクエスト動画だってまだ上げてないけど」
引き寄せられるように、つま先をベッドに向けて、ゆっくりと近づく。
だんだん見えてきたハヤテの表情は、店で見るときよりも暗く、静かな怒りが滲んでいた。
「凛音も浅いファンだったってこと?」