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第1章 P.S. I love you

比企のりこ。

君に初めて会ったのは、入社してすぐ、
ファッション誌「レトワール」の編集部に配属されてきた時だった。

色白でほっそりとした君は、
小さな顔に大きなレンズの眼鏡をかけていたね。

いかにも文学少女といった雰囲気の君は、
華やかに着飾る先輩たちの中で
ひとりぽつりと浮いていたっけ。

初日は借りてきた猫のようにおとなしく、
おどおどした目で周囲を観察していた君だけど、

翌日からは、
見ているこっちまで目が回るほど忙しく働いていた。

コーヒーを配ったり、コピーを取ったり、
取材の雑用について歩いたり、
借り物に出かけたり。

どんな仕事も一生懸命だった。




梅雨が明け、衣替えが近くなると、

君は、羽化した。



さなぎの固い背中を突き破って、
蝶が羽を広げたみたいに、

君の装いは美しく、
洗練されたものになった。

ファッション誌に携わる中で、
センスと知識を磨いた君は、

着飾ることの真理を、
僕に教えてくれた。



着飾ることは、自信を纏うこと。

着飾ることは、気分を纏うこと。

着飾ることは、周囲に華やぎをもたらすこと。

着飾ることは、周囲の人々を惹きつけること。



僕は職場を飛び回る君に、目を奪われたっけ。

女はこうまでに変身できるものなのだと。