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女の性癖、男の嗜好…(短編集)
第16章 美佐緒 32歳

秀樹とよく飲み明かした馴染みだったバーに出向くと、あの日のように秀樹はカウンターに座っていた。

「お隣…よろしいかしら?」

まるで今夜、初めて出会うかのように
私は少しおすましして彼に声をかけました。

『よお!来たな』

秀樹はニヤリと笑うと『座んなよ』と
顎で隣の席を指した。

「おっ!懐かしいねえ
二人が揃ってこの店に来てくれるなんてさ」

マスターも私たちの顔を覚えてくれてたようで
再会を祝して「お店からのサービスです」と
マティーニをご馳走してくれました。

四年ぶりのお酒です。
というのも、夫は下戸なので晩酌などしないものですから、私も夫にあわせてお酒を飲むことがなくなっていたんです。

クイッと飲み干すと
食道から胃袋に向かって熱い激流が心地よい。

「いいねえ、相変わらずの呑みっぷりだな」

秀樹も飲み干すと
「ジンライムを…」とマスターにおねだりしました

「相変わらずにいつもソレなのね」

「ほっておいてくれ、呑みやすいんだよ」

ジンライムのグラスを差し出しながら
マスターが小声で「色あせぬ恋って意味があるんですよ」と教えてくれました。

色あせぬ恋、か…

「ねえ、秀樹、今でも私のことを好き?」

そう言ってから自分が人妻なのに、
とんでもない発言をしたと頬を染めました。

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