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女の性癖、男の嗜好…(短編集)
第20章 知世 35歳
尾崎は店長ではあるが、
店長なんて名ばかりである。
若い従業員には見下され、
休みもなく気付けば独り身のまま女っ気もなく、
働けど働けど先の見えない雇われ店長の尾崎にとって、
自分に逆らえない、弱みを握られた女というのは
飢えた蛇の前に置かれた卵のようなものである。
そんな女の名前も住所も、すべて把握した尾崎は
今ならこの女に対して何をしても許されるという不思議な感覚に陥っていた。
「すみませんなら子供でも言えますからねえ、
それにゴメンで済めば警察は要らないって言うでしょ」
話す度にチラチラ覗くタバコのヤニで黄ばんだ歯が、私に酷い嫌悪感を与えてきた。
不快感で顔を曇らせる私を見て、尾崎は、これから彼女をどういたぶるか、己の欲望をいかにこの目の前の女で満たすかということしか考えていなかった。
「じゃあ、まぁ~…規則は規則なんで
他に盗んだ物がないか確認しましょうか」
よいしょ、と酷く面倒くさそうに店長は
私の胸元から手を引き抜くと
この小さな事務室にたった一つしかないドアに鍵をかけた。
その緩慢な動作は私をなおさら追い詰めてゆきます。
「わ、わたし…本当にこれだけで…他には何も…」
か細い声でそう弁明するが、
それは一度罪を犯した者の言葉であり、
信用に値しないと退けられてしまった。