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女の性癖、男の嗜好…(短編集)
第33章 槙子 50歳
封筒の中から出てきた離婚届には
すでに私の署名と捺印を済ませてあります。
「あとはあなたが署名捺印をするだけよ」
なるべく早く役所に出してね
私は言い捨てると
もう用はないとばかりに席を立ちました。
「ま、待ってくれ!!
俺たちはまだ夫婦なんだ!
な?そうだろ?
だからさ…最後の思い出に一緒に旅行に行こうじゃないか」
「はぁ?何バカなことを言ってんのよ
新婚旅行ならぬ離婚旅行ってわけ?」
私が拒むと
「俺はまだお前を愛しているんだ!
な、頼むよ、最後に思い出を作らせてくれよ!」
涙をポロポロこぼす夫が惨めで
私は「いいわ、あなたと一緒に何かをするのはこれが最後よ」と夫の提案を受け入れました。
週末、品川駅のターミナルで待っていると
定刻少し前に夫が現れました。
いつもとは違う雰囲気に私は驚いちゃいました。
「あなた…そのスタイルよく似合っているわ」
「そうかい?ショップの店員にコーディネートしてもらったんだ
最後だからね奮発してカッコいい俺をお前に見せたかったのさ」
一緒に暮らしている時からそういう心がけをしてくれたら、私だって別れたいと思わなかったかもしれないのに、こんな瀬戸際にならないと気づかないなんて男って本当にバカだわ
新幹線で隣同士で座っていると
隣からツンと加齢臭の匂いがした。
『この人…老けちゃったわね…』
スタイルは今風にキメてるけれど
体臭と動作は、どうしてもおじさんそのものでした。