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女の性癖、男の嗜好…(短編集)
第33章 槙子 50歳

「で、どこに連れていってくれるの?」

旅行に行く約束はしましたが
目的地は聞いていません。

「熱海だよ」

「熱海?」

「ほら、新婚旅行が熱海だったろ?
だから、最後も熱海にしようと思ってね」

『熱海か~…久しぶりよね
結婚したときは貧乏カップルで海外旅行なんて行けなかったものね…』

熱海と聞かされて
私はちょっぴりセンチメンタルになりました。

「じゃあ、泊まる旅館も当時と同じところを?」

「ああ…そう考えたんだけどね…
潰れてしまっていたよ、ガッカリさ…」

「そう…潰れたの?…
時の流れって残酷よね
何だか私たちの思い出も潰れちゃた気分になるわ」

「その分、違う旅館で新鮮な気分を味わえるんだから、それでもいいじゃないか」

東京から熱海までなんてあっという間です。

駅でタクシーに乗り込み
夫は旅館名をドライバーに告げた。

「お客さん達、フルムーンってやつですか?
いい旅館にお泊まりになるんですね」

上客を乗せたとばかりに
ドライバーは饒舌に語りかけてきました。

「よければ観光タクシーとしてご指名してください」

タクシーから降りるときにドライバーが名刺をくれた。

ドライバーが「いい宿」と誉めたように
素晴らしい旅館でした。



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