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女の性癖、男の嗜好…(短編集)
第34章 姫華 66歳
マイカーで会場まで行ければいいのですけれど
あいにくと私は免許を持っていませんし
私の足として送り迎えをしてくれた夫は熟考の末、
先月に免許証を返納してしまったんです。
だから施設までは電車で通います。
華やかな衣装を着ているものですから
周りの乗客は何事かとジロジロ見ますけれど気にしません。
介護施設に辿り着くと
職員の方が笑顔で出迎えてくれました。
こんなに喜んでくれるのですから
道中でジロジロ見られることなんか何でもありませんでした。
「本日はよろしくお願いします
なにせ、施設の利用者はかなりの高齢なので
出来れば超懐メロでお願いしたいのですが…」
「ええ、大丈夫です
レパートリーはめちゃくちゃありますから」
施設で用意してくれたカラオケ音源CDを確認して
これならすべて歌えますと答えると「楽しい歌会になりそうです」と職員は喜んでくれました。
歌い始めると施設の利用者さんも手拍子したりノリノリで「あの歌を歌って欲しい」とかリクエストも頂いたりして、その日は時間一杯まで歌わせていただきました。
さて、ステージを終えて帰ろうとしたら
突然の夕立です
「困ったわ、傘を持ってこなかったもの…」
弱り果てていると施設の若い男の子が、
「僕、この時間で仕事が終わりなんです
よければ送っていきますよ」と送迎を申し出てくれました。