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女の性癖、男の嗜好…(短編集)
第8章 女久美 54歳
「でも良かった…
こうして貴女と話すきっかけが出来ましたから」
ホームを行き交う電車の利用客が
私と青年をジロジロ見ながら通りすぎてゆく。
当然です
こんなおばさんが息子と言ってもいいような青年の手を握って、何も言わずに見つめているのですから。
「こんなところでは人目につきますから
どこかのお店でお茶しましょう」
そう言って青年はスタスタと歩き始めます。
手を離して彼から遠ざかればいいものを
私の手は彼から離れる事をいやがり、
改札を出て近くの喫茶店に連れ込まれた。
「いつも貴女を見て知り合いになりたいと思っていたんです」
コーヒーが運ばれてきて、
ウェイトレスが席を離れると同時に彼はそう言った。
「でも、痴漢をしていいという事ではないですよね?」
犯人を捕まえたというのに
なぜか私の方がどぎまぎして声が震えた。
「ごめんなさい!」
彼はテーブルに額がぶつかりそうなほど頭を下げた。
「いつもは遠目から貴女を見ていたんですが
幸か不幸か今朝は貴女の傍に寄り添うポジションになってしまい、気づけば尻を撫でていました」
「君、それって犯罪なのよ」
わかっています。そう言って彼は再び頭を下げた。