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淫魔の宿へようこそ
第3章 ホテルのお仕事


***

ニコルが廊下を慌ただしく歩いていると後ろから落ち着いた低音ボイスが近付いてきました。

「ニコル殿。 この方向は食糧庫に行くんですか? 良ければ中を案内しますが」

「あ、マエロ、おはよう! うん、二十人ともなれば、コースのメニューを考えなくちゃ駄目だし。 お客様って、一体どんな方達なの?」

「とにかく血の滴る肉が好きですよ。 ドルード様のお仲間ですから」

「そう、じゃあ、うーん…レアの焼き加減の羊」

言いかけて、ニコルは改めてぎょっとして自分の足元を二度見しました。

「い今、犬が喋ったの!?」

「遅いです……そりゃ喋りますよ。 私はドルード様に仕えさせていただいてるのですから」

「……そ、そんなものなの?」

「そんなものです。 ちなみに私はヘル・ハウンドと呼ばれる悪魔の犬と人間界の犬のハーフです」

「へええ、何か格好いいね…あれ、マエロ? ところで、改めて見るとその模様……どこかで私と会ったことがない?」

「ありますよ。 でもきっと忘れてらっしゃるでしょう。 貴女は相変わらず鈍そうですから。 今までよく一人で生きてこれたなと」

首を伸ばした彼の姿はニコルの腰の高さほどもあります。
貴族的な印象で、どこで会ったのか思い出せないのが不思議でした。

それにしても、つんと鼻先を上に向け、ニコルの前をスタスタ歩くマエロはドルードに対する態度とえらい違いです。

「むっ、失礼な!」

頬を膨らませたニコルは負けじとマエロの後を追ったのでした。




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