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淫魔の宿へようこそ
第4章 悪魔のお客様達


そんな余裕なんかある訳がなく、ニコルはいっそ膝が崩れ下半身から下の力が抜けそうでした。
彼が発した言葉の方向や息の振動で、その部分の肌がゾクゾクしてしまうのです。

「こんなに震えて…可愛いね……ニコル?」

(だ、だめ……そんな耳元で話さないで……っ!)

言葉の最後が少し小さくなって掠れるドルードの声。

彼の話し方はいつも落ち着いてゆっくりしているので、ニコルは彼が話し終わるまで目を堅くつぶって耐えていました。

そんなニコルの様子を興味深そうに眺めていたドルードですが、ふいに真面目な顔になります。

「……でもね、君に一つお願いがあるんだ」

「へ……?」

すると突然ドルードの腕が伸びてきて、彼の手のひらがニコルの両頬を包み込みました。
そのままグイっと上向きにされてしまいます。

至近距離にドルードの顔があります。

(う、うわわわっ!)

「な、何を……!?」

ニコルは驚いて目を丸くしました。
そんなニコルの様子にドルードは目を細めます。

「……僕以外の男にサイラスに見せたような、あんな無防備な顔を見せてはいけないよ? いいね、約束だよ?」

(え……?)

ニコルは目をパチパチさせました。

(それってどういう……?)

暫くの間沈黙が続きました。

「ニコルはうちの料理人なんだから」

(あ、そういう意味ね)

「………はい!」

それでも <うちの料理人> と言われたのが嬉しく、ニコルは思わず大きな声で返事をしました。

「それから、ここの館の地下には近付かないようにね」

ニコルが縦に頷くとドルードはにっこり微笑んで彼女の頬から手を離しました。


「じゃ、僕はみんなの所に戻るよ」

そう言ってドルードはニコルに背を向けました。


(あれ?)

しかし彼と別れたその直後、ニコルはなぜか胸の奥が少しチクリとしたのを感じたのでした。




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