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千一夜
第39章 第七夜 訪問者 隠し事について ②

円周率にすがるべきではなかった。3.14は私を助けてはくれなかった。
京子が腰を前後に二度三度、それから上下に二度……動かしただけで私は京子の中に出してしまった。
そのときの京子の「えっ?」という驚きの顔を私は生涯忘れないと思う。どんなに振り払っても京子のその呆れ顔は私にまとわりついて離れない。
京子の期待に応えられなかった自分が惨めで情けなく、できることなら私はこの場から一目散に逃げ出したかった。
逃げ出した(正確に言うと、寝室から出たのは私ではなく京子だった)のは京子だった。
「シャワー」
京子はそう言って寝室を後にした。お風呂に入って来るでもなければ、シャワーを浴びてくるでもない。たった一言「シャワー」。
冷たく言い放たれた京子の一言に私の心は瞬間で凍った。
耳を澄まして京子の様子を探っていたわけではないが、京子がシャワーを終え、玄関から出ていくのが私にはわかった。
「帰るなよ」と馴れ馴れしく声をかけるほど私と京子には積み重ねてきた時間がない。だからと言って「帰らないでくれ」と懇願すれば、抜け殻のようになってしまった自分の首を絞めることになるだろう。
だから私は沈黙の中に逃げ込んだ。
どん底に落とされても(落とされたのではない。自分からどん底に落ちたのだ)、明日の仕事のことが頭を過った。
早漏の私に愛想をつかした京子は、この先、この家のチャイムを鳴らすことなどしないだろう。もう二度と京子とは会うことがない。だが仕事は私の前から消えてなくならない。
「切れ変えろ」
私は自分にそう言った。浴室に行き、体を洗い風呂に浸かる。目を瞑り湯舟の中で仕事の流れをシミュレーションしてみた。何度も何度も考える。どうやら明日も明後日も定時に仕事を終わらせることはできないようだ。
咲子とのゴルフの前に練習場に行きたかったが、残念ながらクラブを握る時間はなさそうだ。まぁ何とかなるだろう。一度だけ咲子とコースを回ったが、実力は私と同じくらいだ。
大勝ちすることもなければ大負けすることもない。素人のゴルフなんてそれでいいのだ(だからゴルフは面白い)。一打一打に神経をすり減らすのはプロの仕事。
週末の天気は晴天になるようだ。気持ちよくプレーして,それから北海道に向かう。一週間旅するなんて人生で初めての経験だ。気がかりはあるが、私は北海道の旅を楽しむ。
京子が腰を前後に二度三度、それから上下に二度……動かしただけで私は京子の中に出してしまった。
そのときの京子の「えっ?」という驚きの顔を私は生涯忘れないと思う。どんなに振り払っても京子のその呆れ顔は私にまとわりついて離れない。
京子の期待に応えられなかった自分が惨めで情けなく、できることなら私はこの場から一目散に逃げ出したかった。
逃げ出した(正確に言うと、寝室から出たのは私ではなく京子だった)のは京子だった。
「シャワー」
京子はそう言って寝室を後にした。お風呂に入って来るでもなければ、シャワーを浴びてくるでもない。たった一言「シャワー」。
冷たく言い放たれた京子の一言に私の心は瞬間で凍った。
耳を澄まして京子の様子を探っていたわけではないが、京子がシャワーを終え、玄関から出ていくのが私にはわかった。
「帰るなよ」と馴れ馴れしく声をかけるほど私と京子には積み重ねてきた時間がない。だからと言って「帰らないでくれ」と懇願すれば、抜け殻のようになってしまった自分の首を絞めることになるだろう。
だから私は沈黙の中に逃げ込んだ。
どん底に落とされても(落とされたのではない。自分からどん底に落ちたのだ)、明日の仕事のことが頭を過った。
早漏の私に愛想をつかした京子は、この先、この家のチャイムを鳴らすことなどしないだろう。もう二度と京子とは会うことがない。だが仕事は私の前から消えてなくならない。
「切れ変えろ」
私は自分にそう言った。浴室に行き、体を洗い風呂に浸かる。目を瞑り湯舟の中で仕事の流れをシミュレーションしてみた。何度も何度も考える。どうやら明日も明後日も定時に仕事を終わらせることはできないようだ。
咲子とのゴルフの前に練習場に行きたかったが、残念ながらクラブを握る時間はなさそうだ。まぁ何とかなるだろう。一度だけ咲子とコースを回ったが、実力は私と同じくらいだ。
大勝ちすることもなければ大負けすることもない。素人のゴルフなんてそれでいいのだ(だからゴルフは面白い)。一打一打に神経をすり減らすのはプロの仕事。
週末の天気は晴天になるようだ。気持ちよくプレーして,それから北海道に向かう。一週間旅するなんて人生で初めての経験だ。気がかりはあるが、私は北海道の旅を楽しむ。

