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千一夜
第53章 第七夜 幻界の扉
「それって……つまりなりすましということ?」
「多分」
 咲子の問いにそう答えたが、私は自分の推理に自信がある。
「江村都子という人が沢田絵里になりすましていた……でも長谷川、メールなんかを使ったなりすましならわかるけど、沢田さん、じゃなくて江村さんは、沢田と名乗って私たちの前に堂々と顔を出していたのよ。沢田という人になりすますメリットなんてあるの? そんなリスクを背負って彼女は何がしたかったわけ? 素性がばれたらそこでジエンドよ。違う違う、ジエンドなんかでは済まないわ。そんな危ない橋、誰が渡るのよ」
 香坂がそう言った。私と咲子、そして香坂は私の小さな選挙事務所にいる。
「普通わな」
「普通じゃなかったらスパイ大作戦の世界になるわよ」
「古いテレビドラマをよく知ってたな?」
「長谷川、スパイ大作戦をテレビドラマだと言う方が古い人間なの。長谷川はトムクルーズの映画見たことないの?」
「テレビでも映画でもそんなのどっちでもいいよ」
「だったら亮ちゃん、本当の沢田絵里さんはどうしているの?」
「……」
「……」
 私も香坂も言葉を出すことができなかった。
 しばらく静寂が続く。無音は空気を重くする。
 誰にも想像がつく。正々堂々と誰かのふりをすることができるのは、その誰かがどこで何をしているのかを把握しているからだ。なりすましている最中に本人がひょっこり現れたりしたらすべてがそこで終わる。
 ただ……その誰かが現れない場合が一つだけある。私も咲子も、そして香坂もそれを考えるのが怖い。
「で、長谷川、私は何をすればいいの?」
「今この件で香坂に何かして欲しいことはない。十二月の定例会で俺が苛められないように根回ししててくれ」
「長谷川、今の聞かなかったことにしておく」
「ふふふ」
 咲子が笑った。
「咲子にはして欲しいことがある」
「何?」
「本当の沢田絵里さんを探して欲しい」
「えっ?」
「長谷川、それどういうことよ?」
「咲子と沢田絵里さんは同じ大学だ」
「沢田絵里さんはシカゴコンサルティンググループの社員だったんでしょ? 入社のとき卒業証明書を提出したんじゃない? 卒業証明書の偽物なんて聞いたことがないわ」
「おそらくそれは本物だ。でも香坂、卒業証明書には写真が貼ってあるか? ないよな? 沢田絵里の情報を握っていれば、なりすまして卒業証明書を大学に請求できる」
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