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千一夜
第57章 第八夜 island 王道
「ところがまだ話は終わらないんです」
「はっ?」
「聞きたいですか?」
「……」
 正直ムカつく。ここまで話しておいて聞きたいですかはない。ただ、頂いた水を飲んで生き返り、その勢いで空を飛んだとか言ったらまじで殴る。私にはそういう覚悟がある。
「薬を貰ったんですよ」
「熱中症の薬ということですか?」
「そういうことになりますね」
「錠剤? それとも粉薬?」
「ちちち」
「……」
 河田はまた「ちちち」と言った。怒りを通り越して私は呆れた。
「お爺さんが僕にこう言ったんです『薬食べるか?』と」
「薬を食べる? 薬って普通飲むものじゃないんですか?」
「中国では薬を食べると言うそうですよ」
「……」
 ここは中国ではない。余計な情報はいいから先に進めと河田の尻を叩きたかった。
「お爺さんは車に戻ると、クーラーボックスを持って僕のところにきたんです」
「クーラーボックス? 薬がその中に入っていたんですか?」
「はい、入っていました」
「……」
 嫌な予感がした。まさかとは思うが、その薬って違法なもの? いやいや田舎のお爺さんが違法○○を持っているわけがない。
「お爺さんは、クーラーボックスの中から薬を取り出してこう言いました『夏はこれに限るね。新潟人はみんなこれで生き返るんだよ』」
「それで、新潟人が生き返る薬って何なんですか?」
 私は薬の正体を早く知りたいのだ。
「へへへ」
 私を焦らす河田。
「何なんですか!」
「……」
 間を取る河田。
「……」
 ここは待つしかない。
「夏、新潟人を生き返らすその薬の名前は」
「……」
「“もも太郎”です」
「“もも太郎”……って犬とか猿とかキジを連れて鬼退治に行ったあの桃太郎ですか?」
「違います」
「……」
「もも太郎はアイスキャンディーです」
「アイス? お菓子?」
「正確に言うと氷菓ですね」
「そんなもので生き返るんですか?」
「一口ガリッと食べると、イチゴの甘さが全身を駆け巡るんですよ」
「ピーチ味じゃなくて」
「リンゴ果汁で作られたイチゴ味のアイスキャンディーです」
「はっ? リンゴ果汁でイチゴ味?」
「はい。めちゃくちゃ美味しいんですよ。あれから僕は甘党になったんです」
 甘党を自慢げに語る河田。甘党なんて将来の糖尿病予備軍じゃないか(体質にもよるらしい)。
「……」
「新潟県民のソウルフードのお話終了!」
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