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千一夜
第57章 第八夜 island 王道
 神奈川県鎌倉市某美術館展示室。
 絵の前で私と河田は黙って立っている。
 間違いなくこの絵を描いた作家は天才だ。上手い、めちゃくちゃ上手い。美術館に展示される作品を描いているのだ。凡人のレベルでは美術館に展示されない。
 が、私も河田も目の前の作品のすばらしさを伝える言葉が出てこないのだ。例えばこの作品の根底にあるテーマはなんちゃらかんちゃらで、作者はそのために○○の色を意識的に使った。その結果作品は作者が意図した以上に……みたいな感じ?
 そして私と河田は同時に感嘆のため息をついている。「ほぉ」とか「うんん」とか、そんな風に。
 あの“?”は絵画と言うか美術と言うかアートだったのだ。
 河田の秘書池沢が河田に伝授したデートの王道、それはドライブ、グルメ、そして芸術。これでデートは大成功になるはず。
 しかし……残念ながらそれを受け止めることが私も河田も出来なかった(決して鎌倉の美術館に展示されている作品のせいではありません)
 作品がズバッと投げかけてくるパッションに戸惑う私と河田。私と河田は同じように口をポカンと開け、ただ作品を鑑賞してた(何だか情けないが)。
 美術館の喫茶ルーム、コーヒーを飲みながら河田がどう話しかけてくるの私は待っていた。だが河田はなかなか話を切り出さない。
 すると……。
「ふふふ」
「ははは」
 二人同時に笑い声をあげた。
「間違えたかな」
 苦笑いを浮かべて河田はそう言った。
「間違えてはいませんよ。作品はみんな素晴らしかった」
「本当に?」
「もちろん。ただ、私にも好みというものがあります。よかったものもあれば、私には合わないなというものもありましたね」
「ありがとうございます」
「えっ?」
「忖度のない工藤さんの感想に感謝しています」
「ふふふ」
「ということは合格点を貰えますか?」
「合格点とは?」
「今日のデートの一つ目、芸術です」
「良……優かな」
「優を貰えるんですか?」
「東京大学の成績って優が一番上ですか?」
「優上というのがありますね」
「では、優ということで。優上でない理由は一つです。作品に向き合うことできなかった私と河田さんの責任です」
「なるほど、了解です。それでは次に参りましょう。工藤さん、お腹空いてますよね?」
「もうペコペコです」
「次は優上いただきます」
「ふふふ、期待してます」


 
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