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千一夜
第57章 第八夜 island 王道
 少し遅い昼食を私たちは七里ガ浜にある海が見えるカフェレストランDDで取っている。テラス席に座る私たちに海からの風が運ばれてくる。とてもとても優しい海風。
 潮の香りを感じようとして大きく息を吸っても、空腹と目の前の料理のせいで磯の香りは鼻孔を通っても私の中ですっと消えた。
 美味しい料理は、私と河田を饒舌にしたり、私たちの口に蓋をしたりする。
 私も河田も和牛のハンバーグステーキ、河田はそれだけでは足りずにあさりがたっぷり入ったボンゴレビアンコを追加で注文した。
 男が豪快に食べる姿に女の心は惹かれる。深川めしを腹の中にかき込む河田を私は知っている。驚きはしなかったが、体の大きな男の食事はワイルドだと思った。
 断っておくが、河田は品のない食べ方をしているのではない。食事のマナーはパーフェクト。大胆に食べても食器がガチャガチャ鳴ることはなかった。
「ふふふ」
「……」
 私が笑ったので、パスタを頬張っている河田は目だけを私に寄越した。
「ふふふ」
 私はもう一度笑った。
「可笑しいですか?」
 口を動かせるようになった河田は私にそう訊ねた。
「食いしん坊」
 私は河田にそう言った。
「否定はしません。僕は食いしん坊です」
 そう言うと河田はパスタをフォークで巻いた。
 何年ぶりだろうか、いやいや違う、こんな風に休日を過ごしたの生まれて初めてだと思う。だから私はもう一度大きく深呼吸をした。肺に入り込んだ空気は私の中で幸せに変換された。
 デザートが運ばれていた。
 河田のチョイスはバスクチーズケーキ。私は苺と抹茶のパフェ。河田は自分の前に置かれたケーキではなく、私のパフェを見ている。
「ふふふ、半分食べますか?」
「いいんですか?」
「どうぞ」
 私はパフェを河田の前に置いた。
 河田は私のパフェスプーンを使ってパフェを食べ始めた。
 河田は本当に甘いものが好きなのだろう、スプーンを口に運んでいる間、河田は一言も話さなかった。
「あっ! しまった!」
 私の苺と抹茶パフェは、河田によって三分の二くらい食べられてしまった。
「ふふふ、全部食べていいですよ」
「いやいやだめです。すみませんでした」
 三分の一残った苺と抹茶パフェと、使ったパフェスプーンを私に寄越してそう言った。
 どうやら私は、残りの三分の一を河田が使ったパフェスプーンで食べなけれならないようだ。
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