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千一夜
第58章 第八夜 island 扉
 翌日、私はいつもより早く店に向かった。
 河田と鎌倉に行ったことを聖子ママに黙っておくわけにはいかない。もちろん加藤にも。
 店に入る前、私は聖子ママの部屋のチャイムを鳴らした。ドアを開けた聖子ママに、私はお土産のグルミッ子を渡して昨日のことを正直に話した。
「すみませんでした。昨日河田さんと鎌倉に行きました。ごめんなさい」
「あっ、そう」
 頭を下げた私に聖子ママはそう言った。
「失礼します」
「まだ時間あるでしょ? 話があるから上がって」
「はい」
 客とのデートは厳禁(この業界の暗黙のルール……のようなもの)だ。部屋に上がれなんて、今まで一度も言われたことはない。私はくびになることを覚悟した。
 綺麗に整頓されている部屋だった。余計なものは一つもない。リビングルームのソファに座っていると、聖子ママがコーヒーとグルミッ子をお盆に乗せて部屋に入って来た。
「コーヒーでいいかしら?」
 聖子ママは日本茶よりコーヒーの方を好んで飲む。
「ごちそうさまです」
「明日からここに住みなさい」
 聖子ママは私の前に座るといきなりそう言った。
「えっ?」
「花嫁修業をここでするのよ。こんなところで花嫁修業なんて嫌?」
「いいえ、私なんかがこちらにお邪魔していいんですか?」
「もちろんよ」
「でも花嫁修業って、私は結婚の予定がないんですが」
「予定なんかなくてもいいじゃない、将来のためよ。それとも先生が私だとダメなの?」
「とんでもないです」
「あなたの荷物は徐々にここに運べばいいわ」
「はい」
「話はそれだけよ。多分今週中に河田さんがお店に来ると思うの。いらっしゃったら私を呼んで、いいわね?」
「はい」
 火曜の夜八時ごろに河田から電話があった。「明日今くらいの時間に行ってもいいか?」という内容の電話だった。デートプランの発案者池沢も連れて行くこと、そして深川めし(池沢の分も)を河田から頼まれた。
 私は聖子ママと加藤にそのことを伝えた。
 聖子ママは「わかりました」とだけ言った。加藤は「ドキドキするわ、何を着て行こうかしら」と子供のように浮かれた様子だった。
 私は河田が連れてくるい池沢が気になった。 
 河田は、池沢を美人でモデルのようだと言った。そんな池沢に会いたいような会いたくないような、私の心の中はぐちゃぐちゃになっていた。
 これって……もしかしたら嫉妬?
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