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千一夜
第58章 第八夜 island 扉
「あなたってわかりやすいわね」
「わかりやすい?」
「顔に出てたわよ。河田さんにお似合いなのは私なんかじゃなくて池沢さんだって」
「……」
 聖子ママにはすべてを見抜かれてしまう。
「どうやら当たりのようね。でも心配しなくていいわよ。河田さんは池沢さんではなくあなたを選んだんですから」
「私を?」
「まだ河田さんからプロポーズされていないの?」
「プロポ―ズだなんて、私たちは休日に鎌倉に行っただけです」
「世間ではそれをデートって呼ぶのよ」
「……」
 返す言葉がない。
「あなたを安心させるために言うわけじゃないけど、美人は三日で飽きるって言うじゃない。勘違いしないでよ。私はあなたがブスだと言っているわけじゃないのよ。あなただって美人なんだから。あなたには隠しておいたけど、うちの店のお客さんの何人かが、あなたとお付き合いしたいと私に言ってきたわ。残念ながらみんなボツ。金を持ってるだけの男なんて寂しい男。仕事が出来て金もある男は裏がありそうで好かれない。大切なのは仕事もできるし金もある、そして自分の女を大切にする男よ。でもね、そんな男にも好みというものがあるのよ。こればっかりは時間が経って変わらないわ。丸顔が好きだと言う人もいる。面長が好きだと言う人もいる。映画の中の主役の女優さんに目を奪われる男もいれば、脇役の女優さんに恋い焦がれる男もいる。私はあなたが脇役の女優だとは言っていないわよ。わかるわよね? つまり世の中はそんな風に成り立っているの」
「……」
 聖子ママが言いたいことはよくわかる。だが、池沢の美しさは別格だ。
「結婚は早くしてね」
「結婚だなんて、そんなのは」
「主人がいつ私を迎えに来るかわからないわ。悲しいかな私はそう言う歳なの。歳に抗う気なんてないけど、あなたが幸せになる姿だけはどうしても見たいのよ」
「……」
 聖子ママのお宅で私は花嫁修業をしている。掃除洗濯、そして料理。
 自分で言うのも何だが、私は料理が得意だ。それでも聖子ママは容赦しない。包丁の使い方や、料理の味付けで気に入らないことろがあると、私はその度に注意される。
「よく覚えておきなさい、料理はままごとじゃないのよ。わかった?」
 母から言われたこともないような言葉を浴びせられても、私は聖子ママに感謝している。
「ところであなたたち」
 聖子ママはそう言って私の顔をじろりと見た。
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